君が残していった悪魔

 私は君のために君の祖母がそうしたように歌います。私は今、君が残していった悪魔を目の前にして初めて、神や悪魔や、そういったこれまで超自然的な事象として考えていたものに対して恐怖しています。例えば外を歩いていて車にひかれる確率を、誰かが資料を用いて計算し、親切に私に教えてくれたとしたって、私はそれこそしばらくは車にひかれたりしないよう気をつけますが、ある日予報はずれの雨が降り、庭先の洗濯物を気にした際にすっかり忘れている事でしょう。そしていつの日か車にひかれた時、あの時の忠告にもならないそれを思い出すのです。それと同じように、今、この時まですっかり君の忠告を忘れていた訳です。あのとき君がつぶやいた呪いの言葉。君の顔。君が残していった悪魔は今、君ではなく私の前で笑っています。


アイスクリーム
 エバーグリーンハイツの集合郵便受けの前はいつもゴミが散らかっているのだが誰もそれを拾おうとしない。引っ越して来てしばらくは帰宅したときに拾っていたのだが、住人の誰かが毎日のようにチラシや空き缶、冷凍食品の包装、ピザを焼いたアルミ、卵の殻、納豆パック、野菜の皮などを止めどなく捨てるので諦めた。ある休日の午後、友人との約束のため外出する際、郵便受けの前を通ると、郵便受けの上に食べかけのアイスクリームのカップが置いてあった。もしかしたら、ゴミを散らかしている人物がすぐ取りに来るのではないかと思ったので、離れた場所で待っていたのだが誰も取りには来なかった。結局、完全に溶けてしまったアイスクリームは野良猫にやった。